今このデフレ期に消費税増税をするとさらなるデフレに繋がる。今行うべきは消費税増税ではなくデフレ脱却、経済成長であることを、データや歴史に基づいて分かり易く書かれた本。消費税増税について理解していない人、デフレの恐ろしさを理解していない人はお勧めの書。
また今後、国民の利益を最大にするためのキーワードは、共存共栄資本主義ではないかと。
- 作者: 菊池英博
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/11/16
- メディア: 新書
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- デフレの原因は、人口が減少しているから、構造改革をしないからではなく、財務省が日本の財政危機を煽り、それに騙された政治家が適切なデフレ政策を実行しなかったから
- デフレにより過去10年間で約120兆円が海外に流出している。そのうち約80兆円で政府が米国債を購入している。これこそが小泉構造改革の真の目標ではなかったのか
- デフレの原点は1996年に閣議決定した橋本龍太郎内閣の緊縮増税政策である。これを引き金に株価暴落が金融危機を招くことになる。さらに自己資本比率規制(BIS規制)を義務づけられた大手銀行は、株価暴落による自己資本減額分を回収することが必要になり、1999年の決算だけでも1年間で46兆円(GDPの10%もの金額)の貸し出しを、主に中小企業から回収した結果、信用収縮を引き起こした。
- 2002年には小泉首相が「数値目標付き均衡財政政策」を閣議決定した(税収等の範囲内でしか支出をしないこと)。これにより日本をデフレにさせる政策が法制化されることにより、デフレが固定化し、経済成長が阻害されることになった(小泉構造改革とは、国内経済をデフレに追い込んで財政支出を削減し金融緩和と円安誘導を行い輸出バブルを起こす政策であった)。小泉首相が均衡財政を導入した理由は3つ。①財務省が橋本財政改革の失敗をなかったことにするために政治家を説得した②米国が日本をデフレにして、日本国民の預貯金を日本のために使わせずに、余った金を米国債や対外投資に向けさせようとした③小泉首相は「小さい政府」を目標にしていたため、デフレ解消は「財政の引き締め」や「金融緩和」に任せれば解消できると考えていた
- 一国の債務には「粗債務:借金の総額」と「純債務:粗債務から政府が保有している金融資産を控除したもの」の2種類がある。日本の財務省では両方を公開しているのにも関わらず、マスコミに発表するときには「粗債務」だけを発表し、国民には「政府債務といえば粗債務しかない」と思わせている。マスコミも財務省の言いなりになり「粗債務」しか報道しない。しかし国際的には政府の債務は「純債務」で把握されている
- 過去にサッチャー政権の英国やレーガン政権の米国で新自由主義を理念とする政策をとったが、本来政府に入るべき収入が、富裕層や大企業に移り国家収入が激減した。新自由主義は富裕層とそれ以外の格差が拡大し失業とデフレを生むことになる。ただし米国は以下の3つの政策でデフレを回避してきた。①軍事需要を増やす②組合交渉で賃金の引き下げを回避③規制緩和で物価が下がってもバブルを起こして物価下落を阻止
- デフレには物価の総合指数が前年比でマイナスになったりプラスになったりと継続的にマイナスにならない「循環型デフレ」と、継続的にマイナスになる「恐慌型デフレ」がある。前者は金融の量的緩和や財政支出の一時的増加で経済が復元するが、後者はいくら量的緩和しても新規投資がでてこない、デフレ・スパイラルになっている。「恐慌型デフレ」の解消に成功した国の共通した経済政策は①政府が国債を発行し、中央銀行が資金を供給し、長期にわたり金利を安定させる②長期間、政府投資を継続して実施する(5年程度)③財政再建の数値目標を設定”しない”こと④景気回復によって名目GDPを増加させる政策を優先し、債務を圧縮する政策を採らないこと
- 今実施すべき政策は、①デフレ政策である「基礎的財政収支均衡政策」を撤廃し、新しい財政規律の指標としては「純債務/名目GDP」の数値を10年単位で逓減させていくこと(積極財政をとると当初3〜4年はこの数値が上昇するが、景気回復によりその後は下がっていく)②毎年の予算とは別に緊急補正予算を5年間で100兆円支出する。①②に関連する財政支出先、財源については※1を参照
- 今日本が取るべき道は、日本国民の「最大多数の最大幸福」であり、基本理念としては次の7点に求められる。①新自由主義(市場原理主義、グローバリズム)との決別→共存共栄資本主義※2②日本国家を再生するために「官民協調」で再建策を樹立する(官僚バッシングや規制緩和ではない)③輸出立国から社会立国・福祉国家へ転換する(内需中心の産業振興を推進)④産業構造を内需主導型に転換し、「社会的共通資本(自然環境、社会インフラ、教育・医療・司法・金融制度などの制度資本)」の整備・拡充を重視する⑤国民の預貯金を国民のために使う(国内に投資をする)⑥日本国民の雇用を重視する国家理念を確立すること。株主より雇用を優先⑦共同体組織で、食料の自給率向上と、農業を輸出産業として育成する
※1 平成23年度第1回経済産業研究所 レジリエンス検討会(レジリエンス研究ユニット共催)
日時:2012年2月17日(金)16:00〜18:00
菊池英博先生(日本金融財政研究所所長、元文京学院大学・同大学院教授)
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/material/pdf/120217RIETI/kikuchi_presentation.pdf
の4ページ目「「5」緊急補正予算5年100 兆円」が国を救うーー政府投資と民間へは投資減税」を参照
※2 新自由主義と共存共栄資本主義の対立軸
新自由主義 | 共存共栄資本主義 | |
基本理念 | 大企業と官僚の利益優先 | 国民の生活優先・人間尊重 |
従米優先 | 親米、しかし従米ならず | |
中国排除 | アジア重視 | |
政治 | 官僚・財務省主導 | 政治主導、官民協調 |
行政改革放棄 | 大胆な行政改革 | |
経済 | デフレ固定化促進、デフレ解消放棄 | デフレ解消優先 |
内需抑制、成長抑制 | 内需拡大、成長重視 | |
TPP賛成 | TPP反対 | |
税制 | 所得税は富裕層優遇 | 所得税は富裕層増税・低所得者減税 |
消費税増税 | 消費税引き上げ反対 | |
法人税最高税率引き下げ | 景気回復で法人・個人所得の増収→大企業法人税引き上げ | |
フラット税制 | 富裕層増税・累進課税→所得再分配 | |
社会問題 | 格差拡大方針 | 格差縮小方針 |
その他 | 輸出優先 | 国内需要の喚起 |
人口対策実らず | 国内経済の復興で人口増加 | |
育児環境の改善 |
また著者の菊池先生は、平成24年3月2日 衆議院予算委員会公聴会にて、デフレ脱却についての提言されています。
内容は本書の内容とほぼ同じです。本を読む時間の無い人も、46分頃から約20分間ほどですので是非ご覧ください