knjrの日記

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日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率

『日本の食料自給率は他の先進国に比べて非常に低い。だから自給率をあげるために農業を保護する必要がある』
と多くのマスコミは伝えている。その結果か、2008年調査で国民の9割が自給率を上げるべきと思っているらしい。
しかしながら、巷のスーパー、八百屋、肉屋、魚屋の商品を見た感じで、マスコミが伝えているほど輸入品ばかりであるか?よ〜く注意してみてみると、それほど輸入品は多くない事がわかる。
本書ではそれらのトリックを解き明かしてくれる。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社+α新書)

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社+α新書)

  • 農水省は国民に危機感を抱かせるために、意図的に食料自給率を低く見せたい。理由は民間による農業経営・マーケットが拡大し、農水省の指導農政が終焉を迎えている=農水省の果たすべき仕事が減っているため。また自らの天下り先を確保するためという保身的な考えだけで、国民の食を守るという考えはない。
  • 日本の農業が生み出した付加価値の総額(農業版のGDP)は、30年以上にわたって世界第5位以上をキープして続けている。また生産額ベースでの自給率については、66%と主要先進国の中では米国、フランスに次ぐ第3位である。
  • 農水省が出している食料自給率はカロリーベースと生産額ベースがあるが、マスコミに登場するのは意図的にカロリーベースのものばかりにしている。この数式の分母には何故か廃棄された食品の値が含まれ(分母が大きくなる)、分子には自給的・副業的な農家の食料は含まれない(分子は小さくなる)。また肉、卵、牛乳なの酪農畜産物では、輸入されたエサの分は国産に含まれない。さらに特に野菜は重量換算の自給率が8割を超えているのに、カロリーが全般的に低いため、カロリーベースの自給率には反映されにくい仕組みになっている
  • カロリーベースの自給率の発表が始まったのは1983年、農作物自由貿易化交渉が世間を騒がせていた時代。生産額ベースではなく、カロリーベースで見せたほうが自給率が低く示すことができ、輸入作物が増えることに対して、不安を訴えやすいためこの指標が作られた。
  • カロリーベースの自給率を採用しているのは、世界で日本だけ農水省が発表している他国の自給率は、その国が発表したものではなく、わざわざ農水省の完了がFOAの資料から導き出した、自作自演の値である。
  • 自給率、向上が叫ばれ始めたのは1999年の「食料・農業・農村基本法」。それから毎年、なぜ自給率は上がらないのか、どうやったら向上できるのかという議論が繰り返されているが、そもそも目標設定が誤った問題は永久に解けない。
  • 国の補助金は、やる気のない兼業農家や米農家に使うのではなくEUなどでは行われているように、経営として成立する事業のインフラ整備や研究開発、新規市場の調査に出すべき(農業以外の分野では当たり前のこと)
  • 民主党の戸別所得補償制度は、農家の赤字を推奨するバラ撒き政策以外の何ものでもない。さらに補償をうける農家は、実際には専業農家ではなく、年収500万以上の地方の土地持ちサラリーマンで、農業で食っていこうという意思などさらさらない民主党の狙いは、農業界全体の弱体化。農業が弱くなればなるほど、農家の政治依存が高くなるから
  • 日本のメディアも大多数の兼業農家や趣味的農家が日本農家を代表している、日本農業は危機であるかのような報道をしている。(2008年には、農水省も17億円もの広告費をつぎ込んで自給率向上キャンペーンを行ったらしい)
  • 1993年の米不足の際に、輸入米は意図的に長粒種のタイ米とされた。理由は「海外産の米は品質が悪い」、だから「自給率を高めて、いつでも品質のよい国産を食べられるようにしよう」と自給率向上と食料安保を結びつけるため



今話題のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加議論で、「必ず農家が犠牲になるから・・・」という報道ばかり目立つ。マスコミの報道を鵜呑みにしたいために必読の書。


P.S.「「食糧自給率」より「稼ぐ農業」!」といった記事も。