- 作者: 畑村洋太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/15
- メディア: 新書
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津波については対抗の仕方として「対抗する」「備える」の2種類がある。津波の力はすさまじく、あらゆる手を打ったところで、完璧には「対抗する」ことはできない。自然と共生するという発想で、非難訓練や防災訓練などで「備える」ことを強化し、上手く付き合っていく道を選ぶのが賢い選択ではないかと。
一方、原発事故については、自然現象である津波は発生そのものを防ぐ事はできないが、原発事故は備えさえしっかり行っておけば、防ぐ事ができたという主張である。特にその中「想定外」という単語が多用されたことについて、強い違和感、憤りを覚えている。
- 原子力は扱いをまちがえれば危険な凶器になるという認識は誰もが持っていた。それだからこを原子力技術を扱う仕事は想定外という言葉で全てが免罪になるような軽いものではない。有り得る事、起こり得ることをすべて想定するといった程度のこをは、普通にできているのが当たり前である。
- 「原子力の専門家」の責務は、今回のような事故を想定することであったが、彼らは「何も考えていなかった」。
ここから「想定」と言う言葉の一般論に踏み込んでいる。ここが本書のキーである。
- 人はなにかを企画したり、計画したりといった「考えをつくる」ときには、まず自分の考える範囲を決める。この境界を設定し、考えの枠を決める事が想定である。
- 実は想定を誰かにしてもらえることほど楽なことはない。難しいのは想定する事、考えの枠を決める事。想定してさえもれば、あとは想定内のことだけ考えていればよいので、それほど難しい事ではない。
- 想定する事⇒「問題設定」、想定内のこをと考える事⇒「問題解決」と考えると分かりやすい。両者で圧倒的に難しいのは、問題設定である。
- 想定する際にもう一つ重要な事は、想定した枠は、時間の経過や環境条件が変化するのに合わせて、変えていく必要がある。
原子力の世界では、この範囲を行政が決めていた。電力会社などは、それに従って考えていただけである。
関連して「コンプライアンス」という言葉についても触れている。
- 日本では「法令遵守」と訳されているが、これは意図的誤訳であり、「社会の要求に柔軟に対応する」というのが本来の意味である。本来、社会が企業に要求しているのは「法令さえ守っていればいい」ということではない。
- 意図的誤訳は事の本質を矮小化し、むしろ日本の組織から危険管理の能力を削ぐものである。その理由は、組織が本当に行うべき「社会の要求に柔軟に対応する」という面が疎かになるという恐れ、さらに法令さえ守っていれば大丈夫と、組織の対応が形式化、形骸化する恐れがあるから
確かに、ネットでcomplianceの意味・語源を調べると...
(何かに)の部分が、日本だけは勝手に「法令」だけに対象が絞られているようだ。
動詞のコンプライ(comply)で「(何かに)応じる・従う・守る」を意味します。従ってコンプライアンスも「(何かに)応じること・従うこと・守ること」を意味します。
今回の日記では久しぶりに[セキュリティ]のタグをつけてみた。その理由は、セキュリティもリスク管理という面で、本書で畑村先生が主張している「想定外」「コンプライアンス」から学ぶ事が多いと思ったからだ。是非、セキュリティ業界の方にも読んでいただきたい一冊!!!