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日本経済の奇妙な常識 (講談社現代新書)

自分の好きな吉本佳生先生の最新著書。公開データを用いて、他の経済学者とは別の視点から日本経済の問題点を指摘し、解決案を提示している。

日本経済の奇妙な常識 (講談社現代新書)

日本経済の奇妙な常識 (講談社現代新書)

ざっくり言うと、デフレは日本の自業自得であると。
日本で金融緩和が行われた→低金利の金が円キャリートレードで海外へ→海外でも金余りになり、世界的な資源価格の高騰へ→その価格上昇が日本の中小企業を直撃したが、企業は価格を大企業や買い手に転嫁できずに、労働者の賃金抑制・カットで対抗した→その結果デフレを招いた


もう少し詳しく説明すると...

  • 日本政府と日銀が行ったの円高対策と金融緩和により引き起こされた投機マネーが海外に流れ込み、近年の資源価格高騰の一要因になった。
  • 日本の輸入依存度が世界有数の低さである。欧州やアジアの国々では20−40%ていどが一般的であるが、日本では10%程度。その理由としては、日本経済の規模と人口が十分に大きいこと、また島国であること。
  • 1998年から2008年までの10年間で輸入物価は26.8%上昇しており、輸入依存度の平均値12.1%を掛けると、国内物価は3.3%押し上げるはずが、実際には14.5%も下がっている。これは、何らかの激しいデフレ要因が国内に存在することを意味する。
  • その原因はこれ↓である。中小企業丁のHPから引用する。



http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h20/h20/html/k1100000.html

  • 何と6割以上の中小企業が0%転嫁、つまりまったく転嫁ができてない結果、日本は資源価格が高騰したのにも関わらず、国内物価が影響をうけていない。そのしわ寄せが労働者の賃金カットとなっている。つまり資源価格高騰を価格に転嫁できない企業が賃金を削った
  • 1990年代後半以降の日本では、単位労働コスト下落傾向がかなり強い(消費者物価指数よりも下回る)。その理由は労働生産性が向上しても、企業が値上げしないことが多いから。
  • 賃金、物価、景気はお互いに影響しあっているが、一番カギとなるのは賃金である。「実質賃金」の継続的な下落、つまり”賃金デフレ”こそが日本経済の真の問題点である。
  • 日本経済はかつては家庭の貯蓄率が高かったが、日本全体としての貯蓄過剰状態は変わっていない。家庭に変わり、今は企業がお金を内部留保の形で溜め込んでいる。それが新しいビジネスに投資されないし、社員や株主にも分配されないことが問題であり、不況を深刻化させている
  • 十分な幅で消費者物価指数上昇率を上回る”賃上げ”こそが日本経済にまず求められているものである。その第一歩としては、資源価格の高騰や国際競争にさらされていないサービス業が賃上げを行うべき


結論は「まずはサービス業の賃上げ」ということであるが、その具体的な施策までは本書では触れられていなかった。主張は理解できるが、サービス業だけ賃上げするこということは、厳しいのではないか。次回はその解決案を期待したい。