knjrの日記

登山、鉄道、写真、カメラ、旅行、読書記録などの思いつくままに

世界から戦争がなくならない本当の理由

世界から戦争がなくならない本当の理由

世界から戦争がなくならない本当の理由

  • 第二次大戦後の70年間だけでも、日本人が平和を謳歌している間も、どこかで戦火が交わられ、多くの犠牲者が出ている(米国による一連の戦争(朝鮮戦争ベトナム戦争、、湾岸戦争イラク戦争)、中東の宗教対立、ソマリアアンゴラの内戦、カンボジア内戦・・・:)。戦争の成功体験が次の戦争を招くだけでなく、「もう戦争は懲り懲りだ」と反省しても、それがまた次の戦争の引き金になる。その意味では、戦後の人間社会は、日本も世界も、自分たちの起こした戦争について、過去を総括し、そこから十分な教訓を引き出していない。戦争が戦争を生む悪循環を断ち切るには、自分たちの過去としっかりと向き合い、歴史に学ぶしかない。
  • 戦前の日本が中国大陸や東南アジアに進出した理由は、日本国内の市場が小さく内需が不足していたから、というのが米国の見立て。だから米国は、日本国内に中間層を育てて内需を拡大すれば外国を侵略しようと考えなくなると考え、日本に労働組合を作らせたり(労働者の所得向上=消費をするようになる)、農地解放(戦前のすさまじい格差を解消)をさせたりすることで、日本に二度と戦争を起こさせないようにした。
  • 戦後日本の安全保障は米国に振り回されてきた。戦後、二度と戦争できないようにするために憲法9条を与えながら、米国の都合で自衛隊を作らせ、さらには集団的自衛権の行使を可能にして、戦争のできる国に戻そうとしているように見える。いちばん問題なのは、そうやって米国に振り回されているうちに、日本がますます物事を主体的に決めることが出来なくなっていることではないか。例:重要な決定における外圧の利用や、TPPのように「バスに乗り遅れるな」的な動き。
  • 自主性を持てないのは、日本がきちんと「独立」を果たしていないからではないか。戦後の日本は国際法上は独立国としての主権を回復したが、それは戦勝国にお膳立てしてもらう形のもの。だから未だにに「外圧」でしか変わることが出来ない。そんな日本が独立国としての自主性や主体性を身につけるには、改めて戦争の総括を自分たちの手でやらなければならない。その戦争の総括には「戦争を始めたこと」だけでなく、「戦争になぜ負けたのか」を含めてのことである。
  • ベトナム戦争の当時、一部のジャーナリストが戦争をありのまま報道した(米国が苦戦していこと、非人道的な行為をしていること)。それ以後、米国ではベトナム反戦運動が巻き起った。米国はそれ以来、戦争に関する報道を規制している。その結果、人々が戦争の実態に沿って反省や総括をする機会が奪われてしまった。
  • NHKのラジオ放送は、日中戦争時に、戦争報道のおかげで視聴者数が急増した。当時の新聞も戦争を応援する報道で、特にライバル紙との勝つために、より過激な言葉で煽り立てた。そういった報道戦争によって好戦的な世論が高まり、日本は戦争の泥沼から引き返すことが出来なくなった。メディアの果たした役割はきわめて大きかった。
  • 日中戦争や日米戦争は、当時は多くのの国民に支持された。本当に怖いのは異常な独裁者ではなく、それを支える国民の熱狂である。当時は戦時体制に非協力的な態度を示したり不自由な生活に不満を漏らすだけで非国民扱いされた。そういった空気が国内を支配していたことに戦後の日本人は反省していたはずである。しかしながら現状の日本では、ネトウヨによる反日や在日といったレッテルを使うことを見ていると、過去の日本と同じ風景のように感じられる。よその国や民族を一括りにして「あいつらは民度が低い」「文化的に遅れている」などと見下した態度を取るようになったら、その社会は非常に危険な状態である。民族そのものに優劣などないのは当たり前。そんな常識も忘れて、日本人は優れた民族などと考えることこそ具の骨頂。
  • この70年間に起きた軍事衝突に深くかかわってきたのは、世界中から反省を迫られた日本やドイツではなく、むしろ第二次大戦の勝利国。二度と戦争を起こさないために国連を設立したのにもかかわらず、そこで中心的な役割を果たすべき「連合国」の米国をソ連が、どれだけ多くの国際紛争を起こしてきたか。
  • 平和な世界を築くためには、バックミラーをよく磨き上げて、そこに映る過去を冷静かつ謙虚に見直し、明確で具体的な教訓を得る必要がある。戦後の日本は、バックミラーがやや曇った状態でこの70年間を走ってきた。全く過去を反省せずに生きてきたわけではないが、反省するときに過去の風景がクリアに見えていたわけでもない。戦争の総括を東京裁判という形で他者に委ねてしまったことで、責任の所在が曖昧になってしまった。
  • 第二次大戦後、米国が過去の教訓を活かして成功した戦争は湾岸戦争のみ。その湾岸戦争さえ、現在の中東の混乱の引き金になっている。この「負の連鎖」をどこかで止めなければ、平和な世界は訪れそうもない。米国はこの70年館に自分たちがやってきた戦争を真摯に振り返り、本当の意味の教訓を得てほしいのだが。


以上が読書メモ。感想は、本書のタイトルである「世界から戦争がなくならない本当の理由」について、池上さんらしく、公開されている情報を時代の流れとして解説しているところは良いのだが、なぜその流れになったのか『本当の理由』がどこにも書かれていない。誰が戦争を仕掛けようとしているのか、戦争によって経済的利益を得ているのか。軍産複合体ネオコンの存在くらいは少しは触れても良いのでは?またトンキン湾事件を自作自演ではなく”米軍の勘違い”と表現していたり、第一次大戦の開戦理由は”あまりよくわかっていない”とぼやかしたり、イラク戦争開戦時の大量破壊兵器保有していなかったのに虚偽の情報を利用して開戦した事実についても触れていなかったりと、タイトルの割にちょっと物足りなさを感じる内容でした。