knjrの日記

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社会的ジレンマ―「環境破壊」から「いじめ」まで

久しぶりに非常に面白い本に出合った!夫婦関係、ゴミ問題などの身近な問題から、デフレ問題、水産資源問題、環境問題、経済格差問題などの世界的問題まで、スパッと解決できない問題のほとんどが『社会的ジレンマ』を含んでいる事が多いのだが、それを分かりやすく解説した書である。


社会的ジレンマ―「環境破壊」から「いじめ」まで (PHP新書)

社会的ジレンマ―「環境破壊」から「いじめ」まで (PHP新書)

まず本書では、社会的ジレンマの定義として以下の3つをあげている

  1. 一人一人の人間にとって協力行動か非協力行動か、どちらかを選択できる。
  2. 一人一人の人間にとっては協力行動を選択するよりも非協力行動を選択する方が望ましい結果が得られる。
  3. 全員が自分にとって個人的な有利な非協力行動を選択した場合の結果は、全員が協力行動を選択した場合の結果よりも悪いものになってしまう。

皆さんも思い当たる節があると思う。


さらに現代社会に社会的ジレンマが増えてきた理由としては…

  • 個々の人間が複数の集団に入るようになり、一つの集団で非協力行動をとっても、別の集団にその評判が届いて、仲間はずれにされることがなくなった。また社会が流動的になり、「旅の恥はかきすて」的な行動が多くなった
  • 生産能力の向上によって、人口が増大するようになったと同時に、お互いに迷惑をかける能力が増大した



また実験から分かった事としては…

  • 社会的ジレンマの問題は、人々の心がけの問題だとする考え方だけでは、十分に対処できない
  • 囚人のジレンマ実験を繰り返して行うと、数を繰り返すたびに協力度は高くなる(だいたい3〜6割程度は協力行動を選択する)。つまり他の参加者が協力行動をとると期待するかどうかに大きく依存する
  • 人々が自分の利益を「正しく」追求する、つまり長期的に見て自分の利益を上げるためには、自分勝手に振舞うのではなく、相手が協力的にふるまうように誘導するやり方が効果的である
  • 協力的な人と非協力的な人には大きな考えの相違がある。非協力的な人は、「自分自身で非協力的な行動をとり易いと同時に、他人も同じように非協力的な行動をとりやすいだろう」と考える傾向がある。協力的な人は「人は様々だと考える。すなわち協力的人も、非協力的な人もいる」と考える傾向がある⇒協力的な人は、常に協力的な行動をする訳ではなく、自分が協力的だと思う相手に対してだけ協力をする。
  • 相手が協力的な行動をとった場合、協力的な人はその人が道徳的だからであると判断する傾向があるが、非協力的な人はその人が腰抜けで、自分の利益を最後まで追求する力に欠けていると考える傾向がある



解決に向けては…

  • 協力するかしなかギリギリの意志の人に対して「協力しても大丈夫だよ」という保証を与えれること
  • アメとムチの使用は、自発的協力による困難をもたらし、問題をいっそう深刻にする可能性がある
  • 人間は数百万年にわたる進化の中で、繰り返し社会的ジレンマの問題を解決してきている
  • お説教のような教育ではなく、道徳感情などの非合理的な行動が、実は自分自身の利益につながってくるのだということを教える教育が重要



う〜なるほど。非常に面白い分析である。
個人的には、「赤太字で記したような内容+本書のような社会的ジレンマの構造」を、高校生あたりで教えることが重要かと思うが、どうだろう