knjrの日記

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日本の原発、どこで間違えたのか

日本の原発、どこで間違えたのか

日本の原発、どこで間違えたのか

本書で著者が一番伝えたい事は、まえがきに集約されている。

いかにして「原発安全神話」は築かれてきたのか。「原発一極集中」というエネルギー政策はどのような政治・経済構造のもとで構築されたのか。放射線をめぐる議論はどう展開されてきたのか。政治主導で進められてきた過去の歴史の1ページをひとりでも多くの読者に伝えたい、そのような強い思いに衝き動かされての緊急出版となった。次の時代の正しい「エネルギー選択」の道案内にとり、たとえ、か細くとも一本の杖となりたい・・・・・筆者のひたすらな祈りである


本書の内容は以下の通り


その中から、今回分かったことを幾つか簡単に。


●「PA戦略(パブリック・アクセプタンス戦略)」
現在のマスコミ登場人物が”原子力推進派”である根底には、原子力村による「PA戦略」がある。「PA戦略」の一つとして、日本原子力文化振興財団は「PAに影響する社会的ならびに心理的要因に関する調査研究」では、原子力に関する専門家・ジャーナリスト1000人を対象として選び、実施した調査結果から対マスコミ戦略をひねり出した。その調査結果では、専門家グループのなかでもとりわけ評論家、ジャーナリストが原子力に対して「最も強い不信感をを抱いているグループである。との結論を導き出したうえで、今後の”PA戦略”では、何よりもその評論家・ジャーナリストを見方につけることが重要であると強調している。
(→本書の元になっている『原発への警鐘』には、詳細が記述されているようである)


原子力発電施設等緊急時安全対策交付金
政府は原発「絶対安全論」スタンスであるが実はそうは思っていない。原発立地県に対して「原子力発電施設等緊急時安全対策交付金」を交付している。各県はその交付金で「万一」に備え、「ヨウ化カリウム錠剤」を購入し、周辺保健所に配布、保管させている。
(→平成22年度の交付金については原子力安全・保安院のページで情報開示されている。福島県の例でいうと、約2億2千万円もの金が交付されているのにも関わらず、緊急配布はされなかった)


●実験炉レベルの技術を商用導入?
日本は原発の技術導入を急ぐあまり、まだ実験炉の域を出ていなかった海外の原発技術を、すでに実用段階と思い込み。その結果、日本に導入された初期の原子力発電プラントは導入直後に事故が多発した。


●公開ヒアリングの実体
原発設置前には、設置場所で「公開ヒアリング」が実施されている。「住民の意見は十分に聞いたうえで」というタテマエになっているが、実際には賛成派の意見陳述だけを取り上げる「大政翼賛会ヒアリング」の形になっている。
(→ヒアリングの状況が”ナマ録形式”で本書の4章で取り上げられている。これが安全審査の一部と思うと、本当にぞっとする。)


●電力会社が原発を推進する理由
電力会社が原発を推進したがる理由は、電気料金とガス料金は総括原価方式を用いているからである。総括原価方式の電気量の計算方式は以下の通りである。
①:専門機関の予測データも加味しながら,向こう3年間(1年間のときもある)の電力の「需要予測」を想定する。
②:①の「需要予測」を満たすには、どれだけの「費用」が必要か、その額をはじき出す。人件費・燃料費・修繕費・減価償却費・公租公課・購入電力費・その他の経費などである。これが「適正原価」と呼ばれる。
③:②と同様に、想定された「需要予測」を満たすには,どれだけの「設備」「資本」が必要となるかを算定する。内訳は、電気事業固定資産(帳簿額)、建設途中の資産(建設仮勘定)の半額、核燃料所有額 ※、繰延資産(株式・社債発行費)、特定投資(ウラン、石油、石炭など各資源開発会社に対する株式投資)、営業費の1.5カ月分などの合計である。なお,とくに ※は核燃料を必要とするのは原発に特有の費目であることに注意。 
④:以上の ①②③より「レートベース」(※1)と呼ばれるものの算出される。「レートベース」に8%(※2)をかけると、「事業報酬」額が出てくる。
⑤:②の「適正原価」と④の「事業報酬」を足して出てくるのが「総括原価」である。
⑥:⑥の「総括原価」を①に想定してあった「需要予測(=予定販売電力量)」で割ると「単価」、つまり「電気料金」が決まる。
上記の計算方式を踏まえた上で、なぜ電力会社が原発を建設するのか。その理由が以下である。
1.同じ発電所をつくるなら、巨大な資金を必要とする(固定資産額がより大きくなる)原発を建設したほうが「レートベース」も大きくなる。「レートベース」が大きくなれば、その8%に当たる「事業報酬」もより大きくなる。
2.同じ発電所をつくるなら、核燃料所有額までも「レートベース」に組み入れられる原発を選んだほうが、そうではない火力・水力発電所などを建設するよりも「事業報酬」も大きくなる。
3.同じ発電所をつくるなら、修繕費・減価償却費の大きい原発を選んだほうが「適正原価」が大きくなる。
4.同じ発電所をつくるなら、このように「事業報酬」も「適正原価」も、ともに大きくなる原発を選んだほうが「総括原価」を大きくなる。
5.「総括原価」が大きくなれば(販売電力量が一定ならば)、それだけ電気料金を高く決めることができる。電気料金が高くなれば、電力会社の収入(売上高)は増え、業績は上がり、収益が好転する。


以上をまとめると、原発を作れば電力会社の収益がおのずと上がる構造になっているのである。総括原価方式(キーは事業報酬の算出方式である)が生き続ける限り、経営者は原発を選択するのは当然となる。またこのシナリオが行き続けるには、電力の販売量が大きく伸び続けることが前提となる。



以上、今回は5つのポイントを紹介したが、特に「●電力会社が原発を推進する理由」については、きちんと理解しておきたい。大手マスコミは「総括原価方式」という単語は使うようになったが、そこから電力会社が原発を推進する理由までの理由までは明確にしていなかった。国民はこの計算方式や電力会社の収益方式を理解し、総括原価方式に意義を唱え、電力自由化の流れを推進しなければ、今後も電力会社が原発固執し続けるのだ。

※1:レートベース=固定資産+建設中資産+核燃料資産+ 繰延資産 + 運転資本 + 特定投資
※2:実際には報酬率=0.3×(自己資本報酬率)+0.7×(他人資本報酬率)で計算される