knjrの日記

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「想定外」の罠―大震災と原発

「想定外」の罠―大震災と原発

「想定外」の罠―大震災と原発

12月26日に中間報告を発表した、政府の事故調査・検証委員会のメンバーであり、作家の柳田邦男の著書。ただし今回の原発事故に直接関連する部分は第一章(50ページほど)だけで、著者が過去に検証した他の重大関連事故について書かれている。以下、なるほどと思ったポイントを抜粋

  • 科学や技術の研究論文を書く場合には、実験データだけでなく実験の条件を明示しなければ論文としての信頼性はないし、論文審査はパスしない。ところが原発の安全性の情報発信や議論になると、安全の前提条件が何も明示されてこなかった。
  • 想像力とは起こりえる事故の形態を予測する能力であるが、原子力関連の専門家の想像力について大きな問題がある。
  • 産業界における大事故は「システム辺縁事故」の問題点と「想定外」の問題点とが、しばしば密接に関係している。システム辺縁事故とは、複雑で高度な技術を駆使した機械システムや装置産業では、システムの中心部は安全確保に万全の配慮をした設計にしてあるのだが、システムのいわば縁という言うべきところで、まさかとおもうような人間のミスや工事ミスや設計上の手落ちなどが生じやすく、それが引き金になって、システム全体を破局に陥れるような大事故を起こしてしまうケースである。
  • 想定外には、「A:本当に想定できなかったケース、B:ある程度想定できたが、データが不確かだったり、確率が低いたとみなされたりしたために、除外されたケース、C:発生が予想されたが、その事態に対する対策に本気で取り組むと、設計が大がかりになり投資額が巨大になるので、そんなことは当面起こらないだろうと楽観論を掲げて、想定の上限を線引きしてしまったケース」の3つがあるが、様々な災害事例では、ケースAは極めて少ない。BかC、あるいはBとCの中間あたりのケースが大半を占めている
  • 災害や事故に関する情報が被災者や国民にとって有効な意味を持つには、以下の四つの条件が不可欠である(1)今起きていることの正確な状況把握に基く速やかな情報提供(2)これからどうなるかの見通し(3)一般人にわかりやすいこと(4)日常から起こりえる事態と対応策(避難対策を含む)について啓発活動が十分に行われ、実地訓練が繰り返し実施されていること。ところが今回の原発震災では、四つの条件全てにおいて失敗だった。
  • 不確定な要素が絡む場合、リスクの最大規模をどうとるかは議論が分かれる。理学系の方々は考えられる可能性の最大に目を向けて警告を鳴らす傾向が強くあるが、工学の方々の視点はかなり違い、経験主義や現実主義に頼っている。その理由は、実際に現場でモノを作るときには、予算枠、建設費の縛りがあるために、どこかで割り切って線引きをしなければならないためである
  • 「想定外」とは、結局、それ以上のことはないようにしようとか、考えないようにしようというような思考様式に、免罪符を与えるキーワードではないか。つまり「想定外」という線引き行為は、安全性を確保するものではないし、むしろ安全性を阻害するものではないかと考える