knjrの日記

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勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常

日本では大きく報道されない米国の対イラク、アフガン戦争の真実についての現場からのレポート。最新の戦争における問題を捉えるために是非読んで欲しい一冊。ここではIED、TBI、無人爆撃機というキーワードから

勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常 (岩波新書)

勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常 (岩波新書)

・2001年10月からの米国がアフガンではじめた「対テロ戦争」はベトナム戦争をしのぎ米国史上最長の戦争となった。米国がイラン、アフガン両戦争の関連支出の総額を試算した結果、支出済みの戦費、米国内での安全対策費、退役軍人に支払う医療費や障害給付金などを加算すると、総額で最大4兆ドル(約307兆円)にのぼる。米国と両国の治安部隊の死者数は約3万人、民間犠牲者や武装勢力を含めると25万人以上の死者になる。それにもかかわらず、両国は安全になっていないし、テロの恐怖は消え去っておらず、いまだに多くの市民が犠牲になっている


イラク開戦以後、武装勢力は10ドルほどで簡単に作れる「IED(※1)」という手製爆弾を多用している。米国はそれに対応すべく、巨額の費用と投じ特殊な大型装甲車(MRAP:1台4800万円)を大量に購入し、それに乗る米兵には飛来する金属片や頭を守るヘルメットや防護服を用意した。その結果、死者数は減り負傷兵の9割が命を取り留めることになったが、その反面、爆発時のショックによるTBI(外傷性脳損傷:Tramatic BRain Injure ※2)の発病者が急増している。TBIはPTSDと同様の「見えない傷」であり、一見PTSDや疲労に似ているので、発見が遅れやすい。イラクとアフガンの帰還米兵約200万人のうち約14万人(7%)がTBIと診断された


・米国はプレデターと呼べれる無人飛行機で偵察や爆撃をしている。機体価格は約3億5000万円とF22戦闘機の約85分の1。無人機は、前線基地もしくは遠く離れた米国本土の基地からパイロットが操縦し、センサーオペレーターによりモニター画面の映像を分析する。米国本土からの攻撃の場合、前線の事情が把握し難いし心理的にも人は現場から遠ざかると現実感を失いやすい。また当初は実機経験あるパイロットが操作していたが、無人機の増加により実機経験もなく未熟なパイロットが増加するなどの理由による操縦ミスや誤爆も増えている。2009年には無人機のパイロット数が実機のパイロット数をが上回ることになった無人機による攻撃は、米空軍だけでなく、米CIAもパキスタンを中心に使っている。CIAの攻撃は秘密裏に行われるので誤爆数なども公開されない。無人機の弊害として、今までは米国兵士の犠牲があるからこそ、米国民も政治家も戦争には慎重になってきた。ところがパキスタンでの無人機の空爆は(米兵が死なないので)米議会で審議されず、戦争という認識さえもたれていない。これは無人機戦争の拡大が生み出した民主主義社会の破壊である


※1.IED:即席爆発装置(そくせきばくはつそうち、IED、Improvised Explosive Device)とは、あり合せの爆発物と起爆装置から作られた、規格化されて製造されているものではない簡易手製爆弾の総称である。防衛省では即製爆発装置あるいは即製爆弾と訳している。Wikipediaより


※2。TBIの概要:脳の一部が局所的にダメージを受ける脳挫傷とは異なり、脳の軸索が広範囲に損傷を受けるもの。軽度から中程度の損傷においては、早期回復が期待されるが、高次脳機能障害に至った場合、記憶力、注意力の低下や人格形成やコミュニケーション能力に問題が生じるほか、四股の麻痺が生じることもある。外見上、健常人と何ら変化は無いが、社会適応性が損なわれるため、通常の生活が送れずに苦しむ患者は多い。