- 作者: 堀江邦夫
- 出版社/メーカー: 現代書館
- 発売日: 2011/05/25
- メディア: 単行本
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日本において原子力発電所(以下「原発」という)の定期点検時には、原発を運転する電力会社の正社員ではなく関電プラントなど原発の保全業務を担当する会社の下請け企業に一時的に雇用された労働者が、点検業務にあたる。ノンフィクションライターである堀江は原子力発電所の「素顔」が見えない事にいらだちを感じ、1978年9月から翌1979年4月にかけて、実際に労働者として原子力発電所での作業に従事した。
美浜原発(関西電力)、 福島第一原発(東京電力)、敦賀原発(日本原子力発電)で就労した経験をもとに彼ら労働者をジプシーになぞらえて「原発ジプシー」と呼んだ。1984年には文庫版の発刊に伴い加筆が行われ、2011年には、本文中堀江以外の人物に関する記述の多くを削除し『原発労働記』と改題して発刊された。 なお、1979年に初版を出した現代書館からも、2011年5月『原発ジプシー』〔増補改訂版〕として復刊されているが、こちらはノーカットで収録・加筆されており、さらに、文庫本の『原発労働記』では削除された1984年文庫版への「あとがき」も収録されている。
文庫版のあとがきによれば、出版後に反響として300通以上の手紙が寄せられた。また、電力会社が本書では仮名であった登場人物の本名を割り出そうと「血まなこになっている」との後日談が、かつての同僚からもたらされてもいる。
30年以上昔の話であるが、当時の原発がいまだに現役で稼動していることを考えると、作業内容は大きく変わっていないことが推測される。
著者のあとがきにあるように、確かに下請け労働者はいろいろな業種で存在しているが、原発の下請け労働者とその他の労働者の違いは「被爆」にある。一日の被ばく量が決められているので、被ばく量が超えれば、それがたとえ数分であろうと、その日の業務は終了するのである。すなわち労働量に対して対価が支払われているというより、文字通り身を削って対価を得ているのである。
また電力会社社員と非社員(下請け)の被ばく量の格差も大きい。2008年のデータでは、総被ばく量のうち、社員の被ばく量はたった3%に過ぎないし、その比率は30年前から減り続けているとのことである。
我々の使用する電気が、彼らのような労働者が支えているのだ。電力について考えるきっかけになる一冊。